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2月, 2025の投稿を表示しています

階名唱を取り入れた授業方法の提案(指導案あり)

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 階名唱の指導の必要性はわかったものの、実際の学校現場において、教科書ではリコーダーの運指等で固定ドが取り扱われていることや、民間教育等で固定ドに慣れた学習者もいる実状を踏まえれば、実施するのは困難なのではないかとお考えになる先生方もいらっしゃることと思います。そこでこのページでは、そういった現状を踏まえ、教員や学習者が固定ドに慣れてしまっている場合でも実施しやすい、階名唱を取り入れた授業方法の提案をしたいと思います。  サイト作成者は、大学院の修士課程において「音楽科教育における唱法指導」をテーマに研究をしてきました。以下は、その修士論文内で提案した授業方法です。  授業のポイントは以下の通りです。 ①歌唱・器楽とも、階名唱、ドレミ音名唱(固定ド唱)の例を「階名付き楽譜」や「ドレミ音名付き楽譜」等を用いて示し、学習者が歌いやすいと感じる方を選択させる。ドレミ音名唱を使用する学習者に対しても、ドレミ音名の下に、階名を数字等で表したものを付記し、今後の階名の学習への足掛かりとする(無理に意識させることはしない。また、数字ではなく「ボチェディ階名」を使用することも考えられるが、コールユーブンゲン等で数字譜が使われていることを考慮し、ここでは数字を使用している。)。なお、ドレミを使用しないことも認める。 「よろこびの歌」≪作曲:L.V.ベートーヴェン≫ の例 階名付き楽譜 ドレミ音名の下に、階名を数字で表したものを付記した楽譜 ②全体での音取りのための歌唱活動は、階名や音名等は脳内で意識するようにし、ラララ等の単一シラブルで歌唱させる。 ③範唱を聴かせる場合はタブレット端末を活用し、各自が自分に合った範唱音源を聴けるようにする。(範唱音源の用意が難しい場合は、ラララの範唱のみにし、学習者は階名付き楽譜かドレミ音名付き楽譜をみてシラブルを頭で意識して歌唱する。教科書のQRコードの音源を使用することも考えられる) ④個人での歌の音取りは、ハミングを基本とし、ドレミで歌いたい学習者は教室内で場所を分け小さい声で歌唱させる。 ⑤器楽において、教科書で使用されている範囲で固定ドを使用する場合、歌唱せず音程をつけずに読む。学習者にもそのシラブルで歌う必要がないことを示す。(聴奏等、読譜によらない演奏機会も設ける) ⑥器楽においても、ドレミを階名に使用した方が良い学習者に対しては、それ...

学校教育での器楽指導と階名唱とのかかわりに関する考察

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 私が自分の研究で実施した教員アンケートで「固定ド唱法を中心に指導する」理由として、器楽で固定ドを使うためという内容が複数見受けられました。  確かに器楽の指導においては運指の確認の際、音名を使えば便利です。学校の教科書では音名をハニホとしているものの、器楽においてハ長調の階名という形で実質的な固定ドも使用されています。これは学校教育に関わるうえで無視できません。  しかし、それを理由に固定ドに依存しすぎるのが良い授業になるでしょうか。音楽が好きなものの学校の音楽の授業は嫌いという学習者が一定数見受けられることは音楽科教育の一つの課題ではありますが、器楽(特にリコーダー)の困難さはその一つでもあります。リコーダーで固定ドを使用することを理由に歌唱でも固定ドを使用することは、本来嫌いではない領域まで嫌いにさせてしまうリスクも考えられます。  さて、それとは別に、器楽に音名を使用する利点があるとはいえ、階名は使えないのでしょうか。私は、ある教員経験者から「器楽で階名を用いる場合、固定ドの12倍の負担になる」という話を受けたことがあります。これには大いに疑問を持ちます。少なくとも現在の小中学校現場の器楽指導では否定されるでしょう。以下で詳細を書きます。  現在の学校現場で中学校から使用されるアルトリコーダーは実音楽器として取り扱われています(現在使用されている教科書会社二社ともアルトリコーダーの楽譜を実音で表記しているため)。そのため、固定ドであっても中学校に入った段階でドの位置が異なる運指を学ぶことになります(これに困難を感じリコーダー嫌いになる学習者も多いことが推察されます)。 ところで、このサイトを見ている方の多くは、すでにアルトリコーダーでドの運指が変わるという経験をされてきた方と思いますので、以下の楽譜を見てください。 よろこびの歌 ト長調  ソプラノリコーダーを持って、階名を見ながらアルトリコーダーの運指だと思って弾いてみてください。絶対音感がある方は気持ち悪いと思われるかもしれませんが、そうでない方は特に困難なく弾けると思います。もし、小学校の段階でト長調の楽譜を階名で読んで弾いていたら、中学校でのドの運指が変わるという理不尽さを軽減できるのではないでしょうか。  そして、中学校でアルトリコーダーになった時に感じる理不尽さのもう一つに、小学校で覚えたソプラノ...

学習指導要領と教科書の唱法の取り扱い

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 固定ド唱法を中心に指導されている教員には、その理由として、「学習指導要領での移動ド唱法の取り扱いは、『適宜』であるから」や「教科書でも固定ドが使われているから」等を挙げられる方が少なくありません。しかし、学習指導要領の解説や教科書を詳しく読めば、それが音楽科教育を固定ドを中心に指導する理由になるとは言い難いことが分かります。この記事ではその詳細をまとめています。 1.学習指導要領  学習指導要領の階名唱に関する内容で特に着目されるのが、平成20年の改訂により、「原則」から「適宜」に代わったということだと思います。これを根拠に固定ド唱法で授業することが妥当と言えるでしょうか。学習指導要領解説(平成元年以前は指導書)まで読むとまた違ったことも見えてきます。着目すべき点を表にまとめました。 1.文部省 1989, 1998小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領 2.文部科学省 2008, 2017 小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領 3.文部省 1989 小学校指導書音楽編 教育芸術社 p98 4.文部科学省 2008 小学校学習指導要領(平成20年告示)解説 音楽編 東洋館出版社 p90 5.文部科学省 2017 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 音楽編 東洋館出版社 p33 6.文部省 1989 小学校指導書音楽編 教育芸術社 p98 7.文部省 1999 中学校学習指導要領(平成10年12月)解説音楽編 教育芸術社 p69  平成20年の改定前は、移動ド唱法を原則とすると言っても、そもそも階名唱に移動ド唱法と固定ド唱法があるという前提で「原則」と書いていました。それが、平成20年の改定以降は階名唱に固定ド唱法が含まれるという解釈ははっきりと否定されました。これは階名唱の取り扱いをより厳格にしているとも解釈できます。現在の平成29年版学習指導要領でもそれは踏襲されています。また、以前に記載されていた固定ド唱法を容認する記述も平成20年改定以降はなくなっています。何故なくなったのでしょうか。憶測になりますが、「 唱法に関する研究レビュー 」の1でも書いたように音程があやふやになる人が増えるというデメリットがあったからではないでしょうか。  学習指導要領での「適宜」という記述に関しては、全ての教材で階名唱することは求められていないということであり、だから...

ハッピー バースデー トゥーユー

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  世界的に有名なお誕生日ソング「ハッピーバースデートゥーユー」の階名付き楽譜です。いろいろな調で演奏されるのを聴く機会があるので、調が変わっても階名が変わらない利点を感じやすいと思います。小学生でソプラノリコーダーで弾く場合はハ長調で弾くことが多いと思いますが、その運指のままアルトリコーダーで弾けばヘ長調になるので、中学生のアルトリコーダーの学習教材としても良いと思います。

唱法に関する研究レビュー

サイト作成者は大学院で音楽科授業における唱法指導に関する研究をしておりました。 ここでは唱法に関する先行研究のなかで特に音楽の授業に関わる先生方に是非知っておいていただきたいものを紹介しようと思います。 1.唱法による旋律の想起の差 以下の研究では、唱法と旋律の想起との関連が調査されています。 杉山知子 1988 唱法の研究(3) https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001202901312000      p40の図で示されているように、移動ド唱法採用者は、「メロディがほぼ正確に想起できる」と「ドレミを読むのに時間はかかるが、メロディは想起できる」を合わせた回答が約8割であったのに対し、固定ド唱法採用者では6割未満となっています。ここで使用された楽曲はヘ長調(1♭)ですが、これがより派生音の多い調であった場合、この差は大きくなることも予想されます。五線譜からドレミを読み取れても脳内で音楽が想起されていなければ、それは読譜ができているとは言い難いでしょう。この調査結果は読譜による旋律把握のために固定ド唱法を採用することが不利になる可能性を示唆しています。  また、この論文の終わりに「移動ドのよさを加味した固定ド唱法に切り替えても良い時期にきているのではないか」と提起していますが、その「移動ドのよさを加味した固定ド唱法」の具体的な方法は書かれていません。おそらく、A-Durであれば「ラシドレミファソラ」を長音階に対応させる、B-Durであれば「シドレミファソラシ」を長音階に対応させるといったことと思いますが、それは移動ド以上の負担になるでしょうし、私は不可能だと思っています。この論文が執筆されてから30年以上経っていますがそのような教育方法が確立していないことが何よりの証拠ではないでしょうか。  これは私の体験談ですが、学校現場の音楽科教員や、大学の音楽専門の学生でも、「固定ドでもそうはならない」という音程で固定ド唱してしまう人が少なからず見受けられます。例えば、ヘ長調なのに「ラ-シ」を全音、「シ-ド」を半音で固定ド唱してしまうようなことが頻発しています。これはドレミによる歌唱が音程を正しくとることに役立っていない(むしろ邪魔になっている)可能性が否定できません。音楽科教員や音楽専門の学生がそのような状態で、一般教...

通りゃんせ

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  わらべうたの「通りゃんせ」の階名付き楽譜です。出だしが「ひらいた ひらいた」と同じ音形なので「レーレド」や「ラーラソ」と歌ってしまいそうですが、3小節目で前の音の減5度上の音が出現するため、2小節目の終わりの音と3小節目の最初の音が「シ-ファ」になることが分かります。楽譜5段目の「ラシドレミファミ」はそこだけ切り取ると日本ぽっくなく感じますが、次の「ファラシラファ」で日本に戻ったと感じます。

牛飼いのヨーデル

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  スイス民謡の「牛飼いのヨーデル」の階名付き楽譜です。個人的にスイス民謡には好きな曲が多いです。ヨーデルの旋律は階名唱の練習に適したものが多く、この曲も分散和音的な旋律を中心に跳躍音程が多く含まれているので、ぜひ階名唱してみてほしい曲です。