階名唱を取り入れた授業方法の提案(指導案あり)

階名唱(移動ド)を取り入れた授業方法の提案

 階名唱の指導の必要性はわかったものの、実際の学校現場において、教科書ではリコーダーの運指等で固定ドが取り扱われていることや、民間教育等で固定ドに慣れた学習者もいる実状を踏まえれば、実施するのは困難なのではないかとお考えになる先生方もいらっしゃることと思います。そこでこのページでは、そういった現状を踏まえ、教員や学習者が固定ドに慣れてしまっている場合でも実施しやすい、階名唱を取り入れた授業方法の提案をしたいと思います。

 サイト作成者は、大学院の修士課程において「音楽科教育における唱法指導」をテーマに研究をしてきました。以下は、その修士論文内で提案した授業方法です。
 授業のポイントは以下の通りです。

①歌唱・器楽とも、階名唱、ドレミ音名唱(固定ド唱)の例を「階名付き楽譜」や「ドレミ音名付き楽譜」等を用いて示し、学習者が歌いやすいと感じる方を選択させる。ドレミ音名唱を使用する学習者に対しても、ドレミ音名の下に、階名を数字等で表したものを付記し、今後の階名の学習への足掛かりとする(無理に意識させることはしない。また、数字ではなく「ボチェディ階名」を使用することも考えられるが、コールユーブンゲン等で数字譜が使われていることを考慮し、ここでは数字を使用している。)。なお、ドレミを使用しないことも認める。

「よろこびの歌」≪作曲:L.V.ベートーヴェン≫ の例

階名付き楽譜
階名付き楽譜の例

ドレミ音名の下に、階名を数字で表したものを付記した楽譜

ドレミ音名(固定ド)付き楽譜の例

②全体での音取りのための歌唱活動は、階名や音名等は脳内で意識するようにし、ラララ等の単一シラブルで歌唱させる。

音取りの活動例の図

③範唱を聴かせる場合はタブレット端末を活用し、各自が自分に合った範唱音源を聴けるようにする。(範唱音源の用意が難しい場合は、ラララの範唱のみにし、学習者は階名付き楽譜かドレミ音名付き楽譜をみてシラブルを頭で意識して歌唱する。教科書のQRコードの音源を使用することも考えられる)

個に応じた範唱を聴く活動の図

④個人での歌の音取りは、ハミングを基本とし、ドレミで歌いたい学習者は教室内で場所を分け小さい声で歌唱させる。

⑤器楽において、教科書で使用されている範囲で固定ドを使用する場合、歌唱せず音程をつけずに読む。学習者にもそのシラブルで歌う必要がないことを示す。(聴奏等、読譜によらない演奏機会も設ける)

⑥器楽においても、ドレミを階名に使用した方が良い学習者に対しては、それを認めるとともに、「ハニホ」または「CDE」の音名を紹介する(教育芸術社の教科書では小学3年生から「ハニホ」音名が、中学校から「ハニホ」「CDE」の音名が掲載されている)。


授業内での指示の例

教室での指示の図

 上記のような視点を取り入れた授業提案をサイト作成者が在籍する大学で実施しました。
指導案 ※模擬授業で取り扱った楽曲は「よろこびの歌」とは異なります。

 授業提案は、本サイトの「このサイトについて」で述べているような、公平な唱法指導の必要性に関する説明をした後、上記の模擬授業を実施しました。

 授業提案の前後、研究協力者に授業での唱法の取り扱いに関するアンケートを取った所、僅かではありましたが「固定ド唱法を中心に指導する」という回答が減少し、「移動ド唱法と固定ド唱法の両方を取り扱って指導する」という回答が増加しました(もちろんここでの「両方」は、全員に両方の唱法をさせることではなく、両方のやり方を提示して学習者に選択させるというものです)。ここで「階名唱法」を「移動ド唱法」と表記したのは研究協力者の中にも固定ドのドレミを階名と誤解している人がいる可能性があったためです(実際に自由記述の中にそう思われる回答がありました)。

唱法に関するアンケート結果(歌唱)
唱法に関するアンケート結果(器楽)

 なお、授業提案前から「移動ド唱法と固定ド唱法の両方を取り扱って指導する」と回答した人も一定数居ましたが、これは調査を私の在籍していた大学で実施し、授業提案前から私と関わっていた学生が複数いたため、公平な唱法指導に対する意識が一般的な集団よりも高かったことが要因と考えられます。

 学校現場における、固定ド偏重の問題は容易に解決できるものではありませんが、きちんと伝える努力をすれば、教員志望の学生たちが、唱法を公平に取り扱おうという意識をもつことは可能だということがわかりました。一方、これまで固定ドで指導してきた教員経験者は、自身がやってきた指導がむしろ足かせになっていた学習者がいるという可能性を受け入れられないことや「器楽は固定ド」のような先入観のため、考えを変えられないという課題も認められました。器楽の指導と階名唱に関しては「学校教育での器楽指導と階名唱とのかかわりに関する考察」や「学習指導要領と教科書の唱法の取り扱い」の内容も参考にしてください。
 結果の詳細と考察に関しては、サイト作成者の修士論文から抜粋した文章を以下のPDFにまとめています(論文の公開にあたっては指導教員の了解を得たうえで行っております。)。特に自由記述の内容とそれに関する考察は、音楽科教育における唱法の取り扱いを考えていくうえで重要な内容だと思います。

唱法指導に関する調査の結果と考察

 今後も、公平な唱法指導の必要性の周知と、それを実現するために役立つ教材の普及を進めてまいりたいと思います。「階名唱が当たり前」にならなくても、「階名唱を選択できることが当たり前」の教育は実現できると思いますし、していくべきだと思います。

 このページに関する質問・ご意見等がございましたら、コメント欄等にお願いします。

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